太陽エネルギーを貯蔵・変換できる物質が発見される:実用化も近いか

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スウェーデンのヨーテボリにある、チャールマス工科大学のKasper Moth-Poulsen率いる研究チームは、太陽エネルギーの貯蔵を劇的に改善することにつながる、画期的な物質を特定した。
触媒によって解放を促されるまで、何十年にもわたって太陽エネルギーを貯蔵できる物質である。
この物質は炭素、水素、窒素から構成された特殊な分子で構成されていて、貯蔵したエネルギーを必要に応じて熱として放出できることを特徴としている。

このチームでは、この物質を用いて、二つの応用例を開発した。
一つ目は、5年から10年というリチウムイオン電池のエネルギー貯蔵期間を大きく超えるエネルギー貯蔵装置である。
二つ目は、日光を吸収してその場ですぐに熱に変換する、透明のコーティング剤である。

研究チームでは、すでに大規模な応用を想定して、このコーティング剤でキャンパス内の一つの建物を丸ごと一つ覆う実験を行っているという。
チームでは、これにより暖房器具の利用量が減り、ひいては温室効果ガス排出削減につながると見込んでいる。
実験が成功したら、貯蔵装置は6年で、コーティング剤は3年で実用化する計画だということである。

 

この物質の特徴の一つは、多くの太陽エネルギー活用技術と異なり、コストが低いことだ。

現時点では、熱エネルギーの代わりに電気エネルギーに変換することはまだできていないという課題があるものの、熱エネルギーに変換できるコーティング剤というだけでも、さまざまな応用可能性が考えられる。

たとえば、小さな建物や自動車であれば、この物質でコーティングを行うだけで、温室効果ガスを排出する暖房器具は必要ではなくなる可能性がある。

また、薄い材料であるため服飾にも転用可能であり、活用すれば、軽量かつ保温性の高い服を設計することも可能であろう。

さらに、寒い地域では、窓にこのコーティング剤を施すことで、建物の窓を広げ、自然採光量を改善することも考えられる。

レアメタルなどの希少物質に依存せずに生産できるため、その安価さや材質的な特徴から、太陽エネルギーを有効活用できる可能性が大きく広げられるのだ。

太陽エネルギーを活用する研究としては、比較的歴史のある太陽光発電に加え、太陽熱発電や人工光合成など、多くの試みが存在する。
自然界では、太陽エネルギーは古くから光合成に用いられ、好気性生物にとっては必須である酸素の生産や二酸化炭素濃度の維持にも役立ってきた経緯がある。

今回発見されたのが炭素、水素、窒素からなる有機物質だったのと同様、自然光合成でも使用されるのは基本的には有機物であるため、今後はレアメタルなどの希少物質に依存せず、比較的合成しやすい有機物の中から、太陽エネルギーを有効活用できる物質を見つけるアプローチがより盛んになるかもしれない。
炭素骨格を持つ分子には非常に多くの形態が存在するため、まだまだすべての有機物の特性が判明しているわけではない。

今回発見された物質や導電性ポリマーのような、特殊な性質を持った物質は、今後も十分に発見され得る。
必要に応じてコンピューターシミュレーションも駆使しつつ、より大きな光エネルギーを蓄えられる物質の開発などにつながっていくことに期待したい。

参考:An Energy Breakthrough Could Store Solar Power for Decades.

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