アルツハイマーに対抗できる可能性のある遺伝子が発見される

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すべてのアルツハイマー型認知症が遺伝的要因によって発病するわけではないが、一部のケースにおいては遺伝的要因が発症に影響することが知られている。

コロンビアでは、プレセニリン1(PSEN1)と呼ばれる遺伝子上にE280Aという突然変異がある人たち、約1,200人が突然変異の結果として、アルツハイマーの早期発症に苦しんでいるが、そのうち一人の女性の事例では、アルツハイマーにり患していながら、認知症の症状が現れないというが報告された。

調べたところ、この女性には、APOE3遺伝子に、二つの「クライストチャーチ」型突然変異が発生していることが判明した。
この突然変異は彼女だけに見られるもので、女性の脳が典型的なアルツハイマー患者のように高濃度のアミロイドβの固着に侵されていたにもかかわらず、彼女がアルツハイマーの顕在的症状に苦しむことがなかったこととの関連性があると考えられている。

この事例は、アルツハイマーの症状が進行しながらも、記憶や認知などの脳機能を維持できる可能性を示唆しているため、アルツハイマーに対する新たな対策の可能性を示す重大な発見だといえる。
多くの場合、アルツハイマー患者はアミロイドβが脳に固着することによって脳機能が阻害され、認知や記憶などに障害が発生するため健全な余生を送れなくなるが、アルツハイマーを発症しながらも認知機能を維持できるとしたら、寿命を延ばし、さらには発症後のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を高めることにもつながるであろう。

 

現段階ではまだ研究途上であるが、少子高齢化の進む日本などの先進国では、将来的に数百万人単位のアルツハイマー症患者が発生すると考えられている。
このことは、周囲の介護負担の増大や介護による経済的活動への参加率の低迷などによって、社会に大きな打撃を与える可能性が高い。

アルツハイマー症患者の認知機能を維持することができれば、介護の負担を減らし、老々介護を担う50代など、本来であれば生産年齢人口にあたる世代が経済活動に再び参加できるようになる一助にもなると考えられる。
このため、将来的に、アルツハイマーによる脳機能阻害を防ぐ遺伝子を特定し、遺伝子編集によって人々に導入することは、アルツハイマーの発症阻止の研究と並び、アルツハイマー対策研究として重要なものとなるであろう。

今回、コロンビアの女性の事例によって、それができる可能性があることが示されたことで、今後のアルツハイマー研究が大きく進展することが期待される。
必要になってくる遺伝子編集の技術も年々急速に発達しているため、実用化に向けたプロセスも、そう長くはかからないであろう。

ただ、ここで気になるのは、すでに認知機能などが衰えてしまった人の機能回復ができるかという点だ。
恐らく、発症前から軽微な発症段階であれば、症状の悪化を防ぐ効果は見込めるであろう。
しかし、すでにある程度症状が悪化した人にこの治療を施した場合、症状が改善されることを意味するものではない。
したがって、今後の研究では、機能回復につながるのかなども、ぜひとも解明してもらいたいものである。

参考:Rare genetic mutation might hold clues to preventing Alzheimer’s.

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