新しいゲノム編集ツールの発見

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チャールズゲルスバッハとエイドリアンオリバーが率いるデューク大学の生物医学エンジニアは、クラス1 CRISPRシステムの新しいセットを用いて、ヒトエピゲノムを編集することに成功した。

現在、最も一般的に使用されている遺伝子編集ツールであるCRISPR-Cas9は、クラス2 CRISPRシステムといわれるものだ。
DNAを対象にして切断するために、たった1つのCasタンパク質に依存することになる。

これに対してクラス1システムはより複雑な仕組みとなっており、DNAに結合するCascade複合体が関与する。
Cas3タンパク質を動員して分子ハサミとして機能するというものだ。
クラス1システムは地球上すべての細菌のCRISPRシステムの90%を構成するとされる。

デュークの研究チームでは、クラス1システムが、現在一般化しているクラス2のシステムと同等の精度を備えていることを発見したのだ。
その結果、研究チームではクラス1複合体を特定の遺伝子活性化因子および抑制因子に結合できることを発見し、人の遺伝子発現を正確に操ることのできる可能性を見出した。
新しいCRISPRクラスの発見により、これからの遺伝子工学ツールボックスを拡張する道を開いてくれたのだ。

 

デューク大学チームの成功は、遺伝子編集のこれまでにはない画期的なフロンティアを切り開く重要な一歩となる。
クラス1システムの精度と特定のアプリケーションは、クラス2システムに匹敵するように思われている。
だが、クラス1システムはCasタンパク質に対する免疫応答など、クラス2システムによる治療アプリケーションでは成し得なかったいくつかの課題に対処できる可能性があるのだ。

ゲノム編集にはクラス2システムのCas9が広く採用されているが,分子量が大きいため、ウイルスベクターへの導入効率が低いなどの問題点が残されていたのだ。
すなわち、匹敵するどころか、機能性や有効性、活用可能性はクラス2システムを上回ることも期待できる。

クラス1システムとクラス2システムの2つの違いをさらに調査することで、これまでには成し得なかった重病や重症例の治療に役立つ方法の開発につながるかもしれない。
研究チームでは既に、人の複雑な疾患と遺伝的素因をターゲットにするために、さまざまな遺伝子編集技術の組み合わせを特定しているという。
クラス1システムはCas9よりもDNAに対する特異性が高い特徴がある。
オフターゲット配列の切断の少ないこともメリットだ。
Cas9では、オフターゲット作用により、本来予定していない部位に挿入欠損変異が生じてしまうおそれがある。
これによって、得られた表現型が損なわれるリスクがあるのだ。

今後、クラス1システムのより高品質な改変体を創出することができるようになれば、より特異性の高いゲノム編集ツールが生み出される可能性が期待できる。
より高度な免疫システムの分析を通じて、今は治療が難しい病気の改善や予防ができる道が広がったことは大変望ましいことである。

参考:New CRISPR class expands genetic engineering toolbox.

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