DNAに頼らない生命の可能性が100万通り以上発見される

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化学と化学モデリングを扱う学術誌、ジャーナル・オブ・ケミカル・インフォメーション・アンド・モデリング誌に発表された論文によると、DNAのような生体情報を記録できる分子が、100万種以上存在するという。

これまでのところ、DNAやRNA、そしていくつかの人工分子が、互いに結合し、生体情報のような情報を記録し得る媒体として働き得ることが知られてきた。
今までは、これらの特殊な核酸のみが生体情報を構成し得る特別な分子だと考えられてきていた。

しかし、エモリー大学の研究者が化学式を生成できるコンピュータープログラムを設計し、無数の分子について総当たりでDNAなどに近い挙動が可能であるか調べたところ、驚くべきことに116万を超える分子が、DNAのようにペアリングを持ち、配列することが可能な性質を持つことが判明したというのが、今回の論文の内容である。

 

この発見は、遺伝的媒体が実は絶対的なものではないことを明らかにする。

最も具体的な応用可能性の一つは医療であろう。
DNAに近い配列を持つ分子は、ウィルスやがん細胞などの増殖を阻害するために用いることが可能であるため、その効果を高めるべく、発見された分子を調べていくことが考えられる。

しかしながら、それ以上に、生命がどのようなものか、どんな生命があり得るのかに関する洞察を広げるきっかけになる点で重要な発見だといえる。
たとえば、地球では、RNA型生命の誕生に続きDNA型生命が誕生したというのが定説だが、それを見直すきっかけにもなるであろう。
現在では一部のRNA型ウィルスを除くと、すべての生命がDNA型であるが、実はそれ以前にはDNA型でもRNA型でもなかった生命がいた可能性を考えることも可能になるため、生命の起源に関する洞察を深めることができる。

また、系外生命の生態に関する洞察を深めることにもつながる。
NASAやESAなど、複数の研究機関が、系外惑星、特に液体の水が存在可能なハビタブルゾーンにあるハビタブルプラネットと呼ばれる惑星を探索している。
仮に非DNA型生命が理論上可能であることが明らかになった場合、これらのハビタブルプラネットで発見される生命に予想外の多様性があったとしても、私たちはそれに備えることができるだろう。

また、発見された遺伝子候補となる物質を一つひとつ調べていった場合、液体の水を媒質としない環境でも繁殖可能な物質が発見されることもあり得る。
このような物質が発見されれば、水が存在しない天体、たとえば太陽系内であれば火星などの生命の可能性についても、新たに検証し直す余地が生まれるだろう。
このように、遺伝子候補が100万通り以上あるということは、現存する地球生命の立ち位置を見直す大きなきっかけになる。

かつて地球中心的な天動説が地動説に取って代わられ、人間中心主義が徐々にエコロジズムなどの環境保護思想に代替されてきたように、遺伝子候補物質の多様性は、DNA型の地球生命中心主義から、理論上あり得る生命を模索していく相対的なアプローチへと、我々が生命を探索するアプローチを大きくシフトさせる可能性があるため、今後の研究成果が注目される。

参考:DNA is just one of more than one million possible ‘genetic molecules,’ scientists find.

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