インフルエンザ対応タンパク質を標的とすることで、インフルエンザの抗体が広範囲の菌株から保護される可能性が出てきた。
普遍的なインフルエンザワクチンの開発やインフルエンザ罹患時の効果的な緊急治療への道をもたらす期待が持てる。
科学者の研究チームにより、普遍的なインフルエンザワクチンの開発につながる新しい抗体が発見された。
マウスによる実験を通じて、体内でのインフルエンザウイルスの複製に不可欠な酵素となるタンパク質ノイラミニダーゼに結合する抗体を特定したのだ。
現在、インフルエンザの治療薬として最も使われているタミフルはこのノイラミニダーゼを不活性化する薬である。
だが、ノイラミニダーゼにはさまざまな形態が存在するため、タミフルをはじめ、同様の作用をする類似の薬剤は、異なるインフルエンザ株に対しては効力がない。
だが、新たに発見された抗体の汎用性をテストした科学者チームによれば、数十匹のマウスに異なるインフルエンザ株を投与して実験をしても、汎用的な結果がもたらされたと発表している。
インフルエンザは小さな子どもや高齢者など体力の弱い人は死に至るリスクもあるうえ、タミフルの副作用で幻覚症状を起こし、飛び降りるなどして死亡した事例が日本でも複数報告されている。
そのため、予防するためのワクチンの接種が促進されているが、現行のワクチンは抗原性が大きく異なるウイルスには働かないのが欠点だ。
流行しているインフルエンザウイルスとは大きく抗原性の異なるウイルスから作られたワクチンを接種しても、予防効果が発揮できないのだ。
そのため、WHOを中心に世界レベルでのウイルスの監視活動を行い、来シーズンの流行ウイルスの抗原性を予想しなければならない。
この流行予測に基づき、その都度、適切な抗原性を持つウイルスをワクチン株として選択しなければならないのだ。
また、不活化ワクチンの接種では感染防御に重要な役割を果たす気道の粘膜免疫や回復プロセスを支援する細胞性免疫がほとんど誘導されない問題点も残っている。
インフルエンザウイルスの感染そのものを防御するうえで、大きな障壁となる重大な問題点である。
さらに遺伝子の突然変異によって抗原変異を起こすインフルエンザウイルスについては、過去のウイルスに対する抗体産生をより強く刺激してしまうという抗原原罪現象があることもわかってきた。
こうした人類におけるインフルエンザとの闘いにおいて、今回の発見は大きな光となるかもしれない。
株が変異を繰り返し、既存の薬剤に対する耐性が発達し、さらに強力なウイルスが生み出されている中で、代替戦略の必要性が喫緊の課題となっているからだ。
新たな発見と研究を通じて、インフルエンザの予防と万能薬の開発が行われることができれば、毎年何千人もの命を救う可能性が期待されよう。